「コンピュータが今以上に蔓延したとしても、人間は書く/描くことを止めることはないだろう…」
鉛筆や画材のメーカーとして有名なファーバーカステルの社史、というよりは350年に及ぶファーバーカステル家の歴史を西洋近代史とともに記した『Faber-Castell』(中身は英文)、当時(2013年)の社長であるアントン=ヴォルフガング・フォン・ファーバーカステル伯爵(1941-2016)が、あとがきとして記した “We will continue to write” と題された文章に心を鷲掴みにされた私は、これをカリグラフィー作品として作り上げ、彼の息子であり現在の社長であるチャールズ・フォン・ファーバーカステル伯爵へご覧いただくため、東郷記念館に持参しました。
去る4月2日、ファーバーカステルの「ペン・オブ・ザ・イヤー 2019」の発表会が東郷記念館で開催されました。今回発表された万年筆は、日本の侍をテーマにした「サムライ」ということで、伯爵夫妻も2017年以来の来日となりました。
この「サムライ」は、前回来日した伯爵が新宿のサムライミュージアムを訪れた際にインスピレーションを得て製作することになったそうです。伯爵は侍について調査をし、宮本武蔵に焦点を当てて、彼の著書である「五輪書」や日本刀等を参考にして完成に至りました(限定品の部品の一部は日本の刀匠が製作)。会場に招待された方はカステルワイナリーのグラスを手に、ハンス・カール・フォン・ヴェアテルン駐日ドイツ大使(お母様がカステル家の出だそうです)や福田正秀氏(宮本武蔵研究家)のスピーチに耳を傾け、サムライミュージアムの殺陣ショーの迫真の演技に目を見張りました。
そしていよいよ私の作品を伯爵夫妻にご覧いただくことに…製作に至った経緯をお話ししたところ、「その言葉は私も心の支えにしているんだ!」と、伯爵は私の書いたゴシックテクスチューラの英文を目で追いながら、文字通り頭からお尻まで、一語一語 声を出して読み上げてくださいました(感動!)。
そして伯爵夫人のメリッサさんが先代伯爵のことを私にお話して下さる際のまなざしには、弥勒菩薩像を彷彿とさせる柔らかさがありました。先代伯爵(父)の信念は今の伯爵(息子)にしっかりと引き継がれていること、そして伯爵夫妻はお二人とも、先代に対する畏敬の念を持ち続けているということがひしひしと感じられました。
「ニュルンベルクへ遊びにいらっしゃい」とお二人に言われたので、数年内には行きたいな…お城はもちろん、工場やワイナリーも見学したい…そのためにも稼がねば!と、決意を新たに東郷記念館をあとにした私でした。