第50回記念國際書道連盟展(12/3(土)〜12/11(日)東京都美術館にて開催)で、拙作が秀作賞をいただきました(今回で3回目)。会場へお越しいただいたみなさま、本当にありがとうございました。
今回の作品名は「原爆行」。日本の漢詩人、土屋竹雨(1887~1958)がつくった漢詩をもとにした文画作品です。
私の秀作賞受賞の朗報に、江戸川区の被爆者団体「親江会」の山本宏会長が会場まで駆けつけてくださいました。
※山本宏会長は「ミスター赤ヘル」山本浩二さんのお兄さんでもあります。
実は、今回の作品「原爆行」が生まれたのは山本会長のお陰なのです。
今年の8月に山本会長の被曝体験を聴く機会があり、そのお話の最後に彼の「原爆行」の詩吟を拝聴しました。私自身、「原爆行」の存在を知るのも、詩吟を鑑賞するのも初めてだったのですが、会長の朗々とした声に魂を揺さぶられてしまいました。
実は山本さんが被爆体験を語りだしたのは、ほんの5年前なのです。それまでは家族内でも一切話したことがなく、弟の山本浩二さんにすら語ることがありませんでした。それほどに壮絶な、文字通りトラウマとなってしまった体験を、まだ元気なうちに、記憶がしっかりしているうちに語り継がねばならないと、山本さんは決意を新たにしたのです。
戦後77年を迎えた今、核の脅威が減るどころか逆に膨張しているのが現実です。山本さんが声を振り絞って語った広島での被爆体験を、土屋竹雨の漢詩を借りて何とか自分なりに形にしなくてはならない。私はそんな思いで、今回の作品を制作した次第です。
「原爆行」は、来年の親江会関連イベントで展示予定です。
原爆行(土屋竹雨)
怪光一綫下蒼旻 忽然地震天日昏
一刹那間陵谷變 城市臺榭歸灰燼
此日死者三十萬 生者被創悲且呻
生死茫茫不可識 妻求其夫兒覓親
阿鼻叫喚動天地 陌頭血流屍横陳
殉難殞命非戰士 被害總是無辜民
廣陵慘禍未曾有 胡軍更襲崎陽津
二都荒涼鷄犬盡 壞墻墜瓦不見人
如是殘虐天所怒 驕暴更過狼虎秦
君不聞啾啾鬼哭夜達旦 殘郭雨暗飛靑燐
怪光一綫蒼旻より下り、忽然地震い天日昏し。
(かいこう いっせん そうびんよりくだり、こつぜん ちふるい てんじつ くらし。)
一刹那の間陵谷變じ、城市臺榭灰燼に歸す。
(いっせつなのかん りょうこくへんじ、じょうし たいしゃ かいじんにきす。)
此日死する者三十萬、生者は創を被り悲しみ且つ呻く。
(このひ しするもの さんじゅうまん、せいじゃは きずをこうむり かなしみ かつ うめく。)
生死茫茫識るべからず、妻は其の夫を求め兒は親を覓む。
(せいじ ぼうぼう しるべからず、つまは そのおっとを もとめ こは おやを もとむ。)
阿鼻叫喚天地を動もし、陌頭血流れて屍横陳す。
(あびきょうかん てんちをどよもし、はくとう ちながれて しかばね おうちんす。)
殉難命を殞すは戰士に非ず、害を被るは總じて是れ無辜の民。
(じゅんなん いのちをおとすは せんしに あらず、がいを こうむるは そうじて これ むこのたみ。)
廣陵の慘禍未だ曾て有らざるに、胡軍更に襲う崎陽の津。
(こうりょうのさんか いまだかつてあらざるに、こぐん さらにおそう きようのしん。)
二都荒涼として鷄犬盡き、壞墻墜瓦人を見ず。
(にと こうりょうとして けいけん つき、かいしょう ついが ひとをみず。)
是くの如き殘虐は天の怒る所、驕暴更に過ぐ狼虎の秦。
(かくのごとき ざんぎゃくは てんのいかるところ、きょうぼう さらに すぐ ろうこのしん)
君聞かずや啾啾たる鬼哭夜旦に達し、殘郭雨暗くして靑燐を飛ばすを。
(きみ きかずや しゅうしゅうたる きこく よる あしたにたっし、ざんかく あめ くらくして せいりんを とばすを。)
(通釈)青空の彼方より、怪しい光が一筋下ったと見るや、たちまち大地は揺れ、青空も真暗になってしまった。一瞬の間に谷も丘もその形を変え、市街も建物も残らず灰燼になってしまった。この日死んだ者は三十万人、生き残ったものも皆傷ついて悲しみ呻いている。誰が死に、誰が生きているかもわからない中、妻は夫を搜し、子は親を呼んでいる。阿鼻叫喚の惨状は天地もどよめくばかり。道端には血が流れ死骸がごろごろ横たわっている。この突然の災難に命を落としたものは軍人ではない、すべて罪のない一般市民だったのだ。このように広島の惨禍はいまだかつてない筆舌に尽くしがたいものであったにもかかわらず、米軍は更に長崎の港を襲い、第二弾を投下したのである。こうして広島・長崎の二大都市は荒涼たる燒け野原となり、昔からその鳴き声は平和のしるしと言われる鶏や犬までも死に絶えて、崩れ落ちた塀や屋根瓦が累々として人影は全く消えてしまった。このような残虐行為は天の神の怒るところであり、到底許されることではない。その凶暴さは、かつて「虎狼の秦」と呼ばれた秦の国をも凌ぐほどである。まだ君は聞いたことがないのか、いまだ夜になると死者の霊が悲しげな声で夜が明けるまで泣き続け、破壊された街のあちこちで雨のそぼ降る暗い夜には、青い人魂が飛んでさまよっているということを。