「ホロコーストの歴史継承 – アウシュヴィッツ博物館の役割」を聴講して

6月9日に開催された中谷剛さんの明治大学講演会「ホロコーストの歴史継承 ー アウシュヴィッツ博物館の役割」のチラシ作成をしました。
本講演会は学内限定イベントでしたが、私も関係者ということで、講演会当日、聴講の恩恵に預かることが出来ました。
ポーランドに30年滞在し、 国立アウシュヴィッツ博物館のガイドをしている唯一の日本人である中谷さん。初めてポーランドを訪れたのは35年前の学生時代の一人旅、今でこそEU加盟国のポーランドですが、時は東西冷戦時代、ソ連の衛星国であるポーランドに入国するには特別な手続きが必要でした。いざ入国してみたところ、意外にも現地の人々に歓迎されたそうですが、その一方で「自由のある日本は羨ましい」と言われた中谷さんは、「自由とは何なのか、民主主義とは何なのか」を改めて考えるようになったそうです。
大学を卒業した中谷さんは、東西冷戦終結直後のポーランドへ再び渡り、苦労してポーランド語を学びながら、とうとう外国人初のガイドの資格を取得したのです。それから20年以上アウシュヴィッツ博物館のガイドをしている中谷さん、ガイドをする時に気をつけているのは、自分の思いを伝えるのではなく、来場者自身に「考えさせる」ようにしているとのこと。
中谷さんに活発に質問をしている聴講生達を見て、BLM運動や、中国のウイグル人弾圧や香港の民主化運動、ミャンマーのクーデター、イスラエルとハマスの対立などなど世界各地で噴出している人権や民主主義について考えざるを得ないという状況も彼等に影響しているのかもしれないと思いました(聴講を許してくださった明治大学、そして水谷さんへ、この場を借りてお礼申し上げます)。

ユダヤ人絶滅を目的としたホロコーストについては、「ヒトラーのせい」「ヒトラーがいなければ」と言われがちだが(終戦後しばらくはそういった声が特に大きく、それを利用して「責任逃れ」をするような風潮もあった)、そのヒトラーを選出したドイツ国民が少数だったかも知れないが確実に存在し、それが結果的に「国民の総意」になってしまったという事実を忘れてはなりません(同様なことが現在の日本にも言えるかもしれません)。
そして第二次世界大戦を体験した世代が少なくなり、特に21世紀になってからは「ドイツ以外の国もアウシュヴィッツに協力していた」という見方も強くなり、グローバル化の進んだ世の中では今やヨーロッパだけの、ユダヤ人だけの問題ではなくなっています。
「よそ者」という理由でユダヤ人を迫害するというのは、ホロコーストが初めてではありません。その規模においてホロコーストに匹敵するものは無いものの、ヨーロッパの各地で同様なことが千年以上も前から行われていました。
「よそ者」という理由で迫害を受け、果ては殺されてしまうという事例は、現在も地球上の至るところで起きているといっても過言ではありません。この事実に暗澹たる思いが濃くなる一方でまた、これを人類全体の普遍的な問題として取り組むため世界中の人々が連帯することもまた可能なのだ、ということに一条の光明を期待したいと思います。

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